個人事業主は、会社員と異なり、住宅ローンの審査が通りにくいと言われています。実際の収入の安定性は誰にもわからないものの、「企業規模」「業種」などによるイメージで信用を得られない個人事業主には不利になりやすいのも事実です。そこで本記事では、個人事業主が住宅ローンを組む際のポイントや必要条件、必要書類について解説します。個人事業主が住宅ローン審査に落ちるよくあるケース一般的に、個人事業主が住宅ローンの審査に落ちる理由として考えられているのが以下の5つです。返済負担率(収入に対する返済額の割合)が高い物件の担保価値が低い開業からあまり年数が経っていない支払いの遅延や滞納の履歴があるそのほかに負債がある住宅ローン審査に通過するためには、住宅ローン、つまり多額の借金をきちんと返済できる能力を示す必要があります。返済能力を示すものとしては一般的に「安定した収入(年収や勤続年数)」「返済負担率」「今までの各種支払い履歴」などがあり、住宅ローンの場合はそれに加えて「物件の担保価値」も重要です。極論、本人の返済能力に多少不安があっても、物件を売却すれば残債をまかなえるほど物件の資産価値が高ければ金融機関も安心して融資を決定できます。個人事業主の場合に大きなネックとなるのが、「安定した収入」です。企業の場合売上が急になくなることはめったにありませんが、個人事業主の場合には事業主の病気やメイン顧客からの受注停止などで一気に収入が落ちることはよくあります。そのため、特に返済期間が長期にわたる住宅ローンでは収入自体が高くても安定性を示しにくいことから審査が通りにくくなります。これは個人事業主に限った話ではありませんが、今までの支払いで問題があったり、そのほかに負債があったりする場合には信用性の観点から審査ではマイナスポイントになるでしょう。個人事業主が住宅ローンを通りやすくするための工夫個人事業主が住宅ローン審査に通りやすくするには、事前に準備をしておきましょう。審査では収入の安定性と返済能力が重要視されるため、所得・借入額両面で金融機関の信用を得る工夫が必要です。住宅ローン以外のローンを完済しておく住宅ローンの審査では、ほかのローンの有無や残債も考慮されます。マイカーローンやカードローンなど、既存の借入があると審査が通りにくくなります。個人事業主の場合、特に気を付けたいのが事業での借入です。住宅ローンを利用した住宅購入を考えているなら、申し込み前にほかのローンを完済しておきましょう。ローン以外にも、見落としがちなのが税金や健康保険料です。事業の支払い優先で未払いになっているものがあれば、すぐに支払っておきましょう。また、それと合わせて借入額自体を減らすのも一つの方法です。自己資金を増やしたり、「相続時精算課税制度」や「直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税制度」を利用して、頭金を増やせば返済負担率の軽減につながります。個人事業主向けの住宅ローンがある金融機関で審査を受ける個人事業主向けの住宅ローン商品はさまざまな金融機関で出ていますが、多くの金融機関では直近3期分の収入を見るのが一般的で年収も「○○○万円以上」と決まっているところがほとんどです。受注や入金のタイミングに売上が左右されやすい個人事業主は、3期連続で安定した収入を出すのが難しい人も多いのではないでしょうか。個人事業主が申し込みやすい住宅ローンを取り扱う金融機関として挙げられるのが、「住宅金融支援機構(フラット35)」「スルガ銀行」「イオン銀行」の3つです。フラット35は総返済負担率(=年収に占める年間合計返済額の割合)が年収400万円未満は30%以下、400万円以上は35%以下なら申し込めます。また、ほかの金融機関と異なり決算書の提出が不要なところも審査のハードルが低い点です。また、スルガ銀行の個人事業主向け住宅ローンには設立年数や所得金額での申し込み制限がありません。ほかの金融機関で必要な事業年数や所得の条件をクリアできない個人事業主にもおすすめできます。イオン銀行がおすすめなのは、事業期間が3年であるものの所得が「100万円以上」で申し込める点です。「事業年数は長く安定しているけれど、完全に一人で事業をしているので大きな所得はない」という人でも申し込みやすい住宅ローンです。過度な節税対策はしない個人事業主の多くは節税のために普段からなるべく経費計上をして所得を抑えるようにしていますが、住宅ローンの利用を考えているなら節税は控えめにしておきましょう。個人事業主の場合、住宅ローン審査で重視されるのは「年収」ではなく「所得」です。経費計上するほど所得が減ってしまうため、住宅ローンを考えているなら税金よりも審査通過を優先し、事業資金の借入や設備投資、節税対策は避けておきましょう。個人事業主が受ける住宅ローン審査の年収条件と計算方法個人事業主が住宅ローンを申し込む際に必要となる年収条件は、「3期以上」「300万〜400万円」というところが比較的多いです。しかし金融機関により異なり、条件を設けていない金融機関もあるため自分の事業状況に合った住宅ローンを選択するとよいでしょう。また収入を得るために仕入れや設備、資材などの出費が必要になる個人事業主の場合、会社員と異なり収入条件は「年収」ではなく経費を引いた「所得」です。例えば年収(売上)が500万円で経費が100万円なら、所得(利益)の400万円が審査対象となるため注意しておきましょう。個人事業主の住宅ローン審査に必要な書類住宅ローンに申し込む場合、金融機関によって異なりますが一般的には以下のような書類が必要です。健康保険証本人確認書類(免許証・パスポート・マイナンバーカードなど)住民票収入を証明する書類売買契約書重要事項説明書建築工事請負契約書(建築する場合)団体信用生命保険関連書類個人事業主の場合、この中の「収入を証明する書類」として以下の書類を指定年数分提出する必要があります。決算書の控え確定申告書の控え納税証明書【まとめ】個人事業主が住宅ローン審査に通るための3つのポイント個人事業主が住宅ローンの審査を通過するポイントは「ほかの借り入れを完済すること」「個人事業主が申し込みやすい金融機関で審査を受けること」「経費を抑え所得を増やすこと」の3つです。個人事業主が住宅ローンの利用を考える際には、以上のポイントをおさえたうえで、前もって「長期にわたり安定した収入を維持している」という事実を書面で客観的に提示できるように準備をしておきましょう。